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 僕の祖父について少し説明をする。  先述のとおり、僕は母方の祖父に会ったことがない。  詳しくは割愛するが、祖父は相当いい加減な男だったらしく、祖母も母もその放蕩ぶりに散々苦しめられてきた。祖父は殆ど家にも寄り付かず、二人が最後に祖父に会ったのは母が成人した時だった。  その祖父が、今朝、亡くなったらしい。  新潟県の山の中の道路脇で男性の遺体が発見され、数少ない手荷物の中にあったのが祖父の運転免許証と、母の実家の住所と連絡先が入った財布だった。  祖母は耳が遠いので警察からの電話をうまく聞き取れず、娘である母に連絡をするようにお願いした。  警察から遺体の身元確認の為出頭を促された母は、すぐに父と二人で新潟に向かった。  その車中で母は僕に電話をかけてきたのだ。  我が家で「おじいちゃん」と言えば、山梨県一宮町に住む父方の祖父「一宮じい」のことを指すわけで、目の前にいる男は一宮じいに似ても似つかない。  仮に目の前の老人が母方の祖父であったとしても、その祖父は今朝亡くなったと聞いたばかりだし、そもそも何で鍵かかかった僕の家にいるのかという根本的な疑問は何も解決されていない。
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