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 「お、おじいちゃん…ですか?」  「そうだよサトシ」  「僕の名前はトオルです」  「そうだよトオル。おじいちゃんだよ」  老人は僕の名前を間違えたことなど一切気にするそぶりも見せず、僕が買ってきた缶ビールを勝手に飲みだし、爽快にゲップをした。  「かあ~美味い!」  「おじいちゃんは、本当に幽霊なの?」  我ながら死にたくなるほど馬鹿な質問である。  「ああ、幽霊だよ幽霊」  「何か、証拠というか、ありますか?僕はおじいちゃんに会ったことがないから」  「証拠って、おじいちゃんであることの証か?それともこの世のものではないことの証明か」  実にややこしい。  僕はだんだん面倒くさくなってきて、流しの下に大事にしまっておいた実家からこっそり持ち出した父親秘蔵のウィスキーを取り出した。  「お!いいもん持っとるな!飲もう飲もう」  僕はグラスに氷とウィスキーを注ぎ、一気に飲み干した。  「どうして今頃俺のところになんか来たの。出るなら母ちゃんのとこだろ」  「美代子は小さい頃からおっかなくてな。婆さんそっくりだ。今更幽霊になってノコノコ枕元に立ったところで、怒鳴り散らされるのが関の山じゃ。それに言っただろ。儂は孫の顔を見たかったんだ」  「だからなんで」  「自分の孫に会いたいという気持ちに、何でもへったくれもあるか」  老人はそう言ってグラスを傾けた。  こうしてまじまじと見ると、母に似ていないこともない。  もっと言うと、毎朝鏡の前で見るパッとしない顔に似ていなくもない。  僕は手を伸ばして老人の肩に触れた。  「な、何だいきなり」  老人は狼狽した。  「いや、触れんのかなと思って。幽霊って」  「触れるみたいじゃな」  老人も確認するように自分の体を触りだす。  何なんだこの状況は。
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