第1章 呼び込み

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「貴子さんは?」 「なにが?」 「えっと、趣味は?」 「映画鑑賞」 「本当に?」  それならば僕が映画の専門学校に通っているという話にもう少し食いついてもよさそうなものだが。 「いちばん好きな作品は?」 「十三日の金曜日」 「ああ……」 「シリーズ全作品DVDでもってるの。ジェイソンが次はどうやって人を殺すのかしらって観ていて本当にドキドキしちゃう。自分がシャワーを浴びるときもジェイソンが登場するときの効果音をかけたりするの。それくらいジェイソンのことが好きよ」 「あは、あはははは……」  僕は愛想笑いをした。もちろんそのタイトルくらいは知っていたが、作品自体は一度も観たことがなかった。 「作品中によく流れるキキキ、マママという効果音はある言葉を言ってるんだけど、なんだか知ってる?」 「いや、知らない」 「キル・マム。殺してママと言ってるの」 「へえ、そうなんだ。他に好きな映画はなに?」 「……特にない」  十三日の金曜日から話題を逸らそうとしたことが裏目に出た。そこで会話が止まってしまった。沈黙。ピピピピ。電子音が鳴る。 「なんの音?」 「二十分終了」 「もう? まだ十分くらいしか経ってないと思うけど」 「缶ジュースを買いに行っている間も時間をカウントしてたから」 「そんな……」 「どうする? 延長する?」 「……いや、いい。帰ります」  時間を延長したところで会話が盛り上がるような気はしなかった。 「チェキのサービスもあるけど」 「え……?」
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