第1章 呼び込み

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 興味が湧いた。メイドカフェなどでは好きなメイドといっしょにインスタントカメラで写真撮影するサービスを行っている。きっとそれと同じだろう。 「一枚千円」 「じゃ、じゃあ、一枚お願いします」  貴子はキッチンに入り、そこから一台のインスタントカメラをもってくる。そしてそのファインダーを覗き、レンズを僕のほうに向けて言った。 「撮るよ」 「ちょっと待って! ふつう、こういうのっていっしょに撮るものでしょ?」 「いっしょって誰と?」 「貴子さんと」 「バカね。私も写真に入ったら誰が撮影するの?」 「あ、そうか」  彼女はまた僕にレンズを向けて言う。 「じゃ、撮るよ。表情が硬い。もっと笑って。ピースとかもすれば?」 「う、うん……」  僕はぎこちなく笑って指二本を立てた。パシャ。シャッターが切られる。ウィーンと音を立てて黒いフィルムが出てくる。カウンターテーブルの上に置いてしばらく待つとそこに写真が浮き出てきた。引きつった笑みでピースをする僕の写真。 「貴子シールを貼ってあげるよ」  彼女はそう言って写真の右上にシールを貼った。楕円形のシールの中で貴子が正面を見据えている。集合写真の撮影日に学校を休んだ人のように見えなくもない。僕はその間抜けな写真に千円を払って店を出た。
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