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火曜日
「こんばんは!」
CLOSEと描かれている看板を気にせず、弥生は店のドアを開ける。奥のスタッフルームから漏れる薄暗い明かりを頼りに、慣れた足取りで店内を進む。うっすらと鏡に映る自分に最初の頃は恐怖を覚えたが、すっかりと慣れてしまった。
今弥生が居るのは、美容室『AQUA』だ。地元の雑誌、時には全国誌に掲載されるほどの有名店。スタッフ全員の対応・技術が、いいのはもちろんだか、何よりも目を惹くのは……
「おう、弥生。来たか」
奥のブースから出てきた、店長兼オーナー兼スタイリストの旭一だ。何が目を引くかといえば、旭の容姿だ。
柔らかな黒髪は一見無造作に見えるが、計算されて整えられているのは誰もが知っている。切れ長の瞳はミステリアスさと厳しさを醸し出している。しかし、一旦接客に入るとそれらが緩まり、極上の笑みを見せてくれる。 旭の笑顔に虜になり、来店する客も多い。何を隠そう、弥生もその一人だからだ。背も高く、手足も長い。一件細そうに見える身体には男らしい筋肉が備え付けられていた。
「旭さん、こんばんは」
「今電気つける」
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