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 空が赤くなってもヒグラシは鳴き止まない。西陽が差し込むアパートの和室で、四十代後半の三和康子は遺影に手を合わせていた。針金のように細い体格で、疲れた顔である。  遺影の中では女子高生が笑いかけていた。隣には一週間前の新聞記事。女子高生がイジメを苦にして自殺した。そう報じていたが、段組みは小さい。  新聞記事の上には、スマホが載せられている。色とりどりのビーズで飾り立てられていて、持ち主の器用さが窺えた。しかし傷だらけで、液晶はヒビ割れている。 「あかり……、気付いてあげられなくてごめんね……」  どのくらい娘に謝罪していたのだろう。あかりの部屋に目を向けると、ゆっくり首を振った。  勉強机、教科書、ノート……。シーツを整えただけで最後にあかりが登校していった、その日のままである。軽く掃除をするだけで、一切動かしていない。あかりを思い出して辛い、と初め誠一は異を唱えていたが、あかりがそのうち帰ってくるような気がしたのである。ふらりと、「ただいま」と扉を開けて、あるいは何事もなかったかのように椅子へ座って……。  ありえない、と康子自身も解っていた。誠一も顔を顰めただけで何も言わなかった。     
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