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ラルグルドがやってくる
その女性は生活に困窮していた。
夫の浮気により離婚。
子供を引き取ったまでは良かったものの、
養育費だけでは生活費が足りず、苦しい生活を余儀なくされていた。
こんなに生活をするのが苦しいなんて自分の見通しの甘さに苦笑いしか湧いてこない。
そして、無理な労働からくる精神的疲労で寝付けない夜が続いていた。
そんな晩には睡眠薬を飲んで寝るのが彼女の日課になっていた。
「ママ?知ってる?悪い寝方をするとラルグルドっていう化け物が現れて、
食べられちゃうんだって!!」
それを聞いて女性は微笑ましい気持ちになった。
幼い頃というものは想像力が豊かなものだ。
サンタクロースに妖精、白線の下を落ちれば死亡なんてゲームもあったものだと。
「ママは強いから大丈夫よ」
女性は微笑みながら、子供の頭を撫でる。
子供はその対応に少し不機嫌そうな顔をする。
「またそんな顔して、嘘だと思ってるんでしょ?ラルグルドに襲われたら僕に助けを求めるんだよ?
絶対に助けに行くからね 」
近頃の子供達の間ではもっぱらラルグルドがくる、ラルグルドがくるという評判でもちきりなのだ。
「ええ…わかったわ?」
小さくても男の子は本能的に人を守るようにできているらしく、
そのたくましさが可愛くて女性は少年をぎゅっと抱きしめた。
夜も深まったその時分、女性はやはり眠れないでいた。
ゴロゴロとしてはウトウトし、ゴロゴロとしてはウトウトする。
熟睡とは程遠い寝方だった。
こんな晩には睡眠薬を飲む他ない。
彼女は慣れた手つきで、睡眠薬を取り出すと一錠を口にいれ、
水道水で胃の中に流し込んだ。
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