星空広場にて

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 “太陽と月の一千一百一会(いっせんいっぴゃくいちえ)(とき)、闇より双極(そうきょく)の救世の使者出で、人形(ニンケイ)の民すべからく救われん。” かつて星の国と呼ばれたニンケイの国の中心地、ここ星空広場では、満天に輝く星空のもと、演劇の舞台が行われていた。 といっても、ほんとうの星空じゃないけどね。天井の壁に星空の文様が描かれているだけの話。 だって、このニンケイの街は長らく、酸性雨を降らせる分厚い灰色の雲に覆われてしまっているのだから。 心なしかライトアップに照らされセリフを言う道化師の顔は、悲しそうにも見える。  私たち流浪(るろう)の民は、幼い頃からこの昔話を聞かされてきた。 かつて太陽の国、月の国、星の国の三国が拮抗していた時代、世界はもっと、平和だった。 1101年前に建国されたというニンケイたちの楽園、星の国は、800年ほど前にその姿をこつぜんと消してしまった。 姿かたちを自由自在にあやつる能力を持つ私たちニンケイの一族は、そのおそるべき能力のために古より、まるで片手に持たれた武器のように、太陽の国と月の国との戦争の道具とされたのだ。 中にはほんとうに剣や銃や大砲など、武器に変形してその心を固く閉ざすものや、岩や城壁に化けてひっそりと生きのびるニンケイたちもいたという。 そんなニンケイたちはこのいまわしい戦争から生きのびても、すでに己の国を失ったあとで、同じように戦火に巻き込まれ逃げ場をうしなった太陽の国の民衆や多くの家族をうしなった月の国の者たちの目の敵にされ、世界中どこにいても()み嫌われる者として流浪の民となってしまっていたのだった。  それはニンケイの血による呪いだとも言われ、長らくニンケイたちにとって、不遇の時代が訪れていたのだ。 けれども、建国の年から1101年の刻を経て、伝承にあるように双極の救世主が現れ、私たちニンケイの民はその呪いをようやくふりほどくことができる、 はずだった。 はずだったのに。
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