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少女は、砂糖と、少しのスパイスと、素敵な何かで出来ている。
そう言ったのは、どこの誰だったか。
随分と夢見がちなその言葉を、俺は小さい頃から盲信していた。
いつからだっただろう。その盲信が幻覚を生み始めたのは。
「辻先生おはよう~!」
まるで牛のようなそれをわざとらしく揺らす目の前の女生徒は、腐れた肉と、口紅と避妊具でできていた。
昨夜もn人目の彼氏とやらと仲良くやってきたのだろう。俺は適当に返事をして目をそらす。
教室を見回した。片付けのできない奴の部屋のような風景が目に入る。
俺の瞳はいつの間にか人を原材料でしか見れなくなっていた。
あの子は本と栞と木材、あいつはサッカーボールと汗と絆創膏。
朝っぱらから奇声撒き散らすあの女は朝の目覚ましと馬鹿な犬と下手なシンバル。
から、と小さな音を立てて扉が開く。
そうだ、一人だけいたじゃあないか。きちんと人間に見える奴。
その人は真っ白な髪に結んだダリアのように赤いリボンを揺らし、いつもの席にすとんと座る。
異様に白い肌。小さな背丈。深紅の瞳。まさに砂糖菓子のような少女だった。
この少女だけは、砂糖と、少しのスパイスと、素敵な何かで出来ているに違いなかった。
授業開始のベルが鳴る。
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