1.辻祐樹という幻覚者 箱庭百合音という砂糖菓子

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「いーや絶対そうだって!!」 「はは、在りえないな。」 楽し気な話し声。見るとパンケーキとプリクラと陳腐な恋愛小説で出来た女が、砂糖菓子の少女(名前を箱庭百合音と言った)に話しかけていた。 「いやいや~辻のユリを見る目おかしーもん。絶対ユリの事好きだって!」 ははは、と砂糖菓子は少年のような声で笑い飛ばす。 「まさか!辻先生はちゃんとした大人だ。生徒(こども)に恋愛感情なんて、抱くはずないだろう?恋愛小説の読みすぎだ。」 そう。 俺は砂糖菓子に恋などしていない。 あるのは興味と関心。それだけだ。 ああ 執着と、妄念もあったかもしれない。 ふと砂糖菓子と目が合う。砂糖菓子はにやりと柚子胡椒のような笑みを浮かべた。 心臓は動かない。やはりこれは恋ではない。 一歩、二歩。不用意に触ればばらばらに砕けてしまいそうな細く白い足を動かして、砂糖菓子はこちらへ歩いてくる。 よく気付いたな。 俺は称賛を素っ気なく紡ぐ。 称賛。 その色素の抜け下に流れる苺やラズベリーのような血の色が鮮やかに見える、その瞳への称賛。 俺は書類仕事をしているふりをして砂糖菓子の会話を聞いていた。楽しそうに談話していた砂糖菓子は気づかないものと思っていたが・・・ 砂糖菓子は、白い指で俺の右手を指す。 「手が止まっていたぞ先生?サボりはよくない。」 にひひ、と得意げにレモンケーキのような笑顔を浮かべる砂糖菓子。 それは確かに、愛らしい少女と呼べるものだった。 箱庭百合音。 砂糖菓子。 愛らしいアルビノの少女。 俺は確かに、この少女を愛していた。 瞳に映る人間が全て、物に変わってしまってからは、砂糖菓子が唯一のにんげんだった。 いつからか始まった幻覚。 確実に俺の心をプラスチックへと変えていった幻覚。 俺はその幻覚に感謝しなければならない。 もしかしたら・・・砂糖菓子を見逃してしまったかも、しれないから。 少女は何でできている?  砂糖と少しのスパイスと、素敵な何か。 それ以外は・・・
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