31人が本棚に入れています
本棚に追加
「いやだから知ら――」
写し出されていたのはビルの屋上で俺と彼女が話しているところだった。
「知らないわけないよな? 」
男は俺の鼻先へ写真を突き付ける。
(な、なんで写真が……? )声が出なかった。
しらばっくれるつもりがとんでもない証拠を出され、思考がまとまらない。
目の前で騒ぎ立てている男の言葉は耳に入ってこなかった。
(どうする? どうすれば逃げられる? )
それしか考えられなかった。
突然眼前の写真が赤く光を発し熱が生じる。
「?! 」俺は急な事に思考を中断させられる。写真から逃げるように後ろに飛び退き、目の前の男を改めて見やる。
「……そうか、答えたくねえってか。なら質問はしねえ、力ずくで吐かせてやる」
普通写真が独りでに燃えるわけがない。
その男の両手は赤々と光り、炎に覆われていた。
乱れた呼吸音が人気のない路地のブロック塀に反響する。
俺は自宅から遠ざかるように全力で走っていた。
地の理やスタートダッシュ、そして時々1つの魔法の手で無理矢理体を引っ張り速度をあげてやっと奴より少しだけ早く移動している。
だが、俺の体力が限界に近い。
自身の運動不足をこんなに恨んだことは一度もなかった。
ちらりと肩越しに後方を見る。
汗こそ出ているようだが、まだまだ余裕そうな男の顔が見えた。
(クソッ、どうすれば良い ……戦うしかないのか……? だが、正直奴に勝てるとは思えな――)
背後でパチパチと何かが焼けるような音がした。
(なにか来る?! )
前のめりになっていた体に急ブレーキをかけ、脇道へと飛び込む。
瞬間、赤い閃光が先ほど俺の走っていた路地を包み込んだ。
近くにいるだけで恐ろしく熱いのに、冷や汗が止まらない。背筋が凍るようだった。
ぎりっと歯を食い縛り体の震えを抑え、走り出す。
(どうにか打開策を考えないと……。……あ、あんなの食らったら……)
火だるまになり叫びながら絶命する自分が脳裏をよぎる。
両足を動かす力が増した気がした。
最初のコメントを投稿しよう!