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無我夢中で走っている刃は自身が、今どこを走っているのかもう分かってはいなかった。
空き家の目立つ町外れの方まで来ていることを彼は理解していないだろう。
何故なら背後からパチパチという音と共に放たれる、帯状の炎を避けるのに脳のリソースを大幅に割いているからだ。
とにかく足を止めずに走り続ける事でいずれ、男を撒けると信じて走り続けていた。
だが対照的に追う側の男――津院 陽斗――は落ち着いて状況を分析していた。
(奴はいつまで走り続けられる? 聞こえてくる呼吸の乱れからしてそう長くは持たねえ筈。
……にしてもスピードが落ちねえな。なんならときたま速度が上がってるのが解せねぇ。
奴が右手を前に出したときに、何かに引っ張られるようにして速度が上がってるようだが……、あれが奴自身の超能力か? )
知らねえ奴との戦闘では相手の超能力を見極めるのが重要だ。
幾つか仮説を立て、絞りこむ。
(……それか透明人間の仲間に手伝ってもらってる? 見えない奴に引っ張られてるように見えるが……。
いやだとしたら俺に干渉してこねえのは不自然だ。
……なにより深夜、高層ビルの屋上にいたし、なにか奴自身の超能力だな。
……正体はわかんねえけど)
思考を一度中断させ一つ息を吐く。
そして俺は両手の熱量を一気に上げた。
両の手が更に明るくなる。
そんな光輝く掌を重ね、前方めがけて炎を放つ。
一瞬にして視界が真っ赤に染まる。
2、3度瞬きをすると炎は消失し、ブスブスと嫌な匂いと共に煙を出す樹脂製の標識板や、焦げて煤のついたコンクリートが現れる。
がその先に人が転がっている様子はない。
(チッ、避けられたか)
先ほど奴が走っていた場所から、最寄りの脇道へとダッシュで曲がる。
瞬間、俺はなにかに足首を掴まれた。
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