一章 発現

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それから手首との生活は数日続いた。  その中でこの手首の事をいくつか知ることが出来た。 まずこの手首は俺の意思で動かせること。 ある程度の自動操縦と細かく指示の出来る手動操縦を意識することで切り替えることが出来た。 そしてもう一つはこの手は増やせるということだ。 半透明ではなくなる――恐らく他者にも見られるようになる――が、最大3つまでは同時に操作できることが分かった。 3つ以上は一度やってみたが、頭痛がしたので恐らく今の俺には3つが限度だろう。つーかこれが限界。 とにかく総評するならこれはお化けではなく、俺に身に付いた特殊能力といった所だ。 手首1つに絞れば、他人にも見られずに使用できる点は日常生活においても中々有用である。 名を付けるならば――魔法の手(マジックハンド)。 (まあ、こんなもんか。端から見れば立派な黒歴史ノートだ) と俺は自分の能力の事を粗方書きなぐったノートを閉じ、伸びをする。 そして手首にペンとノートを片付けさせながら窓から外を眺める。 もう夜中なのもあり、出歩く人はおらず蛍光灯が寂しげにアスファルトを照らしていた。 (これなら見られないよな? ) 今日下校中にふと思い付いたことをテストしてみることにした。 まず手を3つに増やす。そして片足ずつ上げて足裏を握るようにして両足に2つと、バランス取るために肩の辺りに1つ配置して準備は完了だ。足裏の手を浮かせるように意識すると……。 (おぉ、やっぱり浮けたか) 思惑通り自分を浮かせることが出来た。 足の裏の手をそのまま前にスライドさせようとすると自身も同じように移動できる。 「割と楽しいなこれ……」 部屋の中で様々な移動をすることで操作はほぼ完璧に覚えられた。 (……ちょっと外出てみるか) 窓から顔を出し、 周りを見渡す。 先ほども見たがやはり人はいなかった。 決心するとそのまま窓から身を投げ出す。 外からゆっくりと窓を閉め、そっと家から離れる。 「……よし、家じゃ出来なかったことやらないとな」 ひとしきり飛び回った後、部屋ではできなかった高速移動や高度調整などを確かめる。 (……なるほど、こんな感じか。さて、もう少し遊ぼうかな) 夜風を浴びながらのこの移動は、きっとどれだけ金を積んでも味わえないと思うと、優越感に浸れた。 絵面は人が直立不動で空中を平行移動している物凄くシュールな感じだったとしても。
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