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「い、いやー流石に俺の家は、両親いるから厳しいかなぁ。それにほら、寝る場所もないし」
「私別に、何処でも寝れるよ? 」
「……な、何かの拍子に、親に女の子連れ込んでるなんてバレたら面倒なんだ」
「絶っっっっ対バレないようにするから! ずっと飛んでてもうヘトヘトなの。だから今日だけお願い! ね? 」
(……あーこれ諦めないタイプだ。どうしようかな。逃げるって言っても、恐らく追ってくるだろうし)
どうしたものかと考える。バレないように逃げるには……そうか夜か。
(……そう、今は夜なんだ。一瞬の隙さえ作れれば、闇夜に紛れて逃げるのもそう難しくはない筈。
じゃあその隙をどう作るか、だな。少し古典的だが)
「……あー! 」
俺は驚いた顔をしながら彼女の背後、誰もいない虚空を指差し叫ぶ。
「え? 」彼女の視線がそちらを向いた瞬間、俺はくるりと踵を返し、ビルから飛び降りる。
常人ならば自殺と思われるか、もしくは不運の転落だと思われるだろう。
だが俺にはこれがあった。
「来い! 魔法の手ォ!」俺がそう叫ぶと、手首が何処からともなくぬるりと虚空から現れた。
それは先程のように俺の両足の裏を掴み、一つの手首が地面と平行だった体を、立て直し垂直にする。
空中で体勢を立て直した俺は、最短の家までのルートを考え、そして最速で実行した。
結果として行きの半分ほどの時間で、家へと着いた。
自室の窓際の外へと近づき、「……はー疲れた」と独り言が不意にこぼれた。
(にしてもあの子は何だったんだ? 家出と言っていたけど本当にそれだけなのか? ……なんとなく、何かから逃げている感じだったような……。まぁ俺の知った事ではないか)
ふぁあと欠伸をしながら窓に手をかけようとした瞬間――
俺の肩に手が置かれた。
突然の事にぞわりと背筋が冷え、全身の毛が総毛立つ。
弾かれるようにしてそちらを振り向くと
満面の笑みを浮かべた豆丘木葉がそこにはいた。
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