一章 発現

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ドアノブを捻り中に入ると豆丘さんは机に座り、漫画とにらめっこしていた。 「とりあえず持ってきたよ」 俺がそう言うと此方を振り返り「ごめんね、ありがとう」と漫画を閉じ、盆を取りに来る。 「あ、それが刃君の超能力(チカラ)? 」 と盆を持たせている2つの手首を不思議そうに見る。 「……まあそんなところだよ」 (やっぱ2つとかってなると見えるのか。外じゃ使えるのは1つだけだな) 「んー、さっきは3つあったように見えたけど……」 そう言いながら盆を取ると机に置き、備え付きの椅子に座った。 そして「あの……頂いてもいい? 」こちらを恐る恐る見ながら彼女は訪ねる。 「どうぞ」 「頂きます」と豆丘さんは手を軽く合わせ、青椒肉絲を口に運んだ。 猛禽類の足を思わせる尖った指で器用に箸を持ち、もぐもぐと口を動かしている様子を、俺がぼんやりと眺めていると、ごくりと飲み込み「これ、凄く美味しいね」豆丘さんは此方をキラキラとした眼で見てきた。 その視線でなんとなく気恥ずかしくなって、「ふ……普通だよ普通」と顔を背ける。 「私の食べてた物と違って食感も良いし、味もしっかりしてる」本当にお気に召したようで箸が休むことなく、盆の上をせわしなく動いていた。 「……いつもなに食べてたの? 」 「なんか良く分かんない、パサパサしたブロックみたいなのと水とかだったよ」 「……へぇ」 なんか少なくとも、まともな人間と暮らしてたわけじゃないみたいだな。 豆丘さんは一体どこから逃げ出してきたんだ……? 「御馳走様でした」彼女が静かに手を合わせ、呟く。 皿の中身は綺麗さっぱり無くなっていた。 「食べ終わった? 」敷き布団を敷きながら彼は言う。 「うん。本当にありがとう」 「良いよ気にしなくて」欠伸をしながら枕を布団の頭元にぽふっと放り、机の方へと向く。 「盆片付けてくるから先寝てて良いよ」 そして親指を敷いた布団へ指差した。  「……もしかしてい、一緒に寝るの? 」顔を赤らめながら彼をちらちらと見る。 ぶふっと吹き出し「ち、違う違う! 」手を左右にと振り否定する。 「……で、でもそうしないと寝れないよ? 」 「いやいや、ほら俺は椅子にでも座って寝るから、気にしないで良いって」 「じ、じゃあ私が椅子に座って寝るよ」 「いいからいいから」と彼女を布団の縁に座らせ、「じゃあおやすみ」と盆を持ち、彼は下へ降りていった。
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