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『……光?』
夜中に突然かかってきた電話……それは、僕の親友の黒木くんからのものだった。
電話の向こうの彼の声は、酷く震えていた。
「珍しいね、こんな遅い時間に君が電話かけてくるなんて」
『光……俺……俺、どうしよう』
「……黒木くん?」
黒木くんは、それ以上何も言えないでいた。時々聞こえる押し殺したような声……もしかしたら、彼は泣いているんだろうか。
いつもと明らかに違う彼の異常な雰囲気に、僕は思わず語気を強めた。
「ねえ、黒木くん。一体どうしたの、何かあったの?」
『俺……こんな……光、俺……』
「……今、どこにいるの」
取り乱してろくに話すこともできない黒木くんから、どうにか今いる場所を聞き出すと、僕はそっと家を抜け出した。父さんは夜勤だし、母さんは遠方のおばあちゃんの家へ法事に行っていて、家に誰もいなかったのは幸いだった。
スマホと財布、家の鍵をパーカーのポケットに放り込むと、僕は自転車を走らせて夜の道を急いだ。
そこは、街の外れにある廃工場だった。
塀の脇に自転車を停めると、僕は半分空いていた錆だらけの鉄格子をすり抜けて、工場の敷地内へと忍び込んだ。錆びて半分崩れかかった工場の入口の扉……その陰に、黒木くんは身を隠すようにしてうずくまっていた。
「……黒木くん」
声を潜めて呼びかけると、黒木くんは飛び上がらんばかりの勢いでビクッと身体を震わせた。ゆっくりと顔を上げて……声の正体が僕だと分かると、黒木くんの強ばった顔がみるみるうちに歪んでいく。
「光」
「どうしたの、こんな所で」
「俺……こんな……光、どうしよう……」
怯える黒木くんを宥めるように抱きしめると、僕は建物の奥に広がる闇へと目を凝らした。少しずつ目が慣れてくる……すると、少し離れたところにぼんやりと何かが見えた。
「……人?」
破れた窓から差し込む街灯の灯りで、うっすらと明るくなっている工場の中。そこに、人影のようなものが横たわっていて、その下に黒いシーツのようなものが敷いてあるように見える。
……いや、違う。
「……あれは、血だ……」
シーツのように見えたのは、人影の周りに広がった血溜まりだと、ようやく僕は気づいた。さらに目を凝らすと、人影の胸の辺りから細長いものが生えているのが見える……いや、そうじゃない。あれは、何か刺さっているんだ。
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