ライアー・イン・ブルー

4/4
前へ
/11ページ
次へ
その時のことを思い出したのか、黒木くんの声は少し震えていた。 予備校帰りの高校生を襲った男が、抵抗されて刺されて死んだ……人が死んだという事実は重いが、これは黒木くんが自分の身を守ろうとした結果だ。「過剰防衛」だと取られる可能性がないわけじゃないが、逃げたり隠そうとしたりしなければ、きっと事は僕たちに有利に運ぶだろう。 「……黒木くん」 僕は、自分の身体を抱きかかえるようにうずくまっている黒木くんを、もう一度抱きしめた。小刻みに震える彼が、まるでヒビの入ったガラス細工のように思えて、喉の奥がきゅっと痛くなる。このまま放っておいたら、きっと君は粉々に砕けてしまうんじゃないか。 僕はゴクリと唾を飲み込むと、覚悟を決めて……彼の耳元に囁きかけた。 「あの男は、僕が刺した」 「……は?」 「君があの男に襲われているところに、たまたま僕が通りかかった。君を助けようとして揉み合っているうちに、僕が誤って男を刺した」 「お前、何を言ってるんだ……」 慌てて身体を離そうとする黒木くんを、僕は腕に力を込めてしっかりと閉じ込めた。もう一度ゆっくりと、彼に言い含めるように僕は静かに囁いた。 「いいかい? あの男を刺したのは、僕だ……君は気が動転していて、何も覚えていない。誰に何を聞かれても、そう答えて」 「光、どうして……」 「いいから。お願いだ……僕に君を守らせて」 黒木くんの身体から、すっと力が抜けた。僕の耳元で、彼の啜り泣くような声が聞こえる。何度も「ごめん」と繰り返す黒木くんの背中を、僕は宥めるようにゆっくりとさすった。 目を閉じて深く息を吸い込むと、汗と埃の匂いに混じって黒木くんの匂いがした。 「……急がなきゃ」 僕はそう呟くと、黒木くんを置いて立ち上がった。街の外れ、広大な畑の真ん中にあるこの廃工場は、住宅地からはずいぶん離れている。道も狭いし街灯も少ないから、夜になると人も車もほとんど通らない。ただ、ほんのたまに……黒木くんみたいに、混み合う大通りを避けて隣町へ向かうための抜け道として、この薄暗い道を利用する人もいる。 ぐずぐずしていたら、そんな物好きな誰かがここを通りかかるかもしれない。そうなれば厄介だ。僕の計画が全て台無しになってしまう。 「黒木くん、警察を呼んで。僕は証拠を消しておく」 彼にそう言いながら、僕は思わず身震いした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加