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そこは桜が散って新芽がちらほら顔を出す木々に囲まれた広場で、ベンチがいくつかあるデートスポットとしても有名な場所だ。私は木陰にあるベンチに彼と座ると、献上品を差し出して深々と頭を下げる。
「先ほどは、大変な失礼をしてすみませんでした」
「……は?」
彼と目が合うのはツチノコを見つけるのと同じくらい、奇跡的な瞬間である。それくらい私――というより女子の目を見たくない宙斗くんも、唐突な私の行動を見過ごせなかったんだろう。ギョッとした顔で、こちらを見ている。
「これは献上品になります」
「なんだよこれ、怖い、キモイ、受け取りたくない」
私が差し出したもの――キーホルダーは、包装されていて中身が見えない。だからなのか、宙斗くんは得体のしれない物体でも見るかのような視線を向けている。
心なしか、体も少しずつ離れていっている。
なんて失礼な人なんだ。恩を仇で返すとは、まさにこのことだ。
「別にダンゴ虫詰めてるとか、愛情たっぷりのハート形チョコとか、宙斗くんの嫌がりそうな物はなにも入ってないよ」
「うげっ、例えがすでに不快だ」
げんなりとしている彼に、私はズイッとキーホルダーを近づける。
「この包装、さっきのお店のだって気づかない?」
言われて気づいたのか、宙斗くんは「あ」と声を上げる。おまけに、その目が輝いたのを私は見逃さなかった。彼の中でこれが、不快なものから興味の対象へと変わったのだ。
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