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見つけてきてやったぞって、恩着せがましく言うこともできた。なのに高杉くんは、人知れないところで誰にも気づかれないように、リボンを探してきてくれた。きっと、自然に人に優しくできる人なんだ。
なんだろう、うれしすぎて胸が苦しい……。
ずっと、何百年も鍵がかかっていた胸の中のパンドラの箱。それが今、解き放たれるように開いたような感覚。中から溢れたのは、無限にあふれる――。
「私、きみが好きだ……」
――そう、好きという気持ち、それだけだった。
見えない引力でもあるみたいに、きみに強く心を引っ張られる。他に言葉が浮かばない。
言葉を繰り返すインコみたいに、見つけたばかりの好きの気持ちを心の中で何度も呼ぶ。
それは、生まれたばかりのひな鳥のような恋心を愛でるような気持ちかもしれない。
この一瞬でこんなにも、彼への印象が変わる。
イケメンに恋なんておこがましいけど、無謀でもなんでもいいから、きみのことだけは諦めたくないや。
ありがとう、リボンを見つけてくれて。
ありがとう、恋を教えてくれて。
それから高杉くん――ううん、宙斗くんのことが好きだよ。
桜降る、茜色の教室の前。生まれて初めて、誰かに恋をした瞬間だった。
***
「おーい飛鳥、聞いてんのか?」
「……え?」
楓の声で、我に返る。瞬間、教室のざわめきが帰ってきた気がした。
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