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「…これで何回目だ?」
「15回目ですね。次で終了になります」
彼女はトランプを切りながら淡々と答えた。
「ふたりで出来るカードゲームはほぼやりましたが…そう簡単に決着はつきませんね」
「何でお前とサシでトランプなんてやらなきゃならねえんだ」
「貴方様が眠れないと仰るから私がお付き合いしてるだけのことです。こんな時間に誰か起こすのもいけないでしょう」
「まあ、愚弟よりお前の方がいい」
「お、弟様は明日お仕事ですから…」
髪をおろした彼女の頬色はよく見えない。彼は見てやりたいと思ったが、彼女がトランプを配り終えたので仕方なしに手を机に戻した。
「じゃあ、最後はババ抜きで」
「…技術もクソもねえな」
「だからこそ誰でもやるんでしょう。ポピュラーな事柄は俗っぽいものです」
互いに半分ほどカードを捨て、「どうぞ?」と彼女が手札を差し出す。
「…ん」
彼は黒を二枚出し、彼女に無言で手札を突き出す。
一枚引き、二枚出す…その応酬を繰り返し、互いに残り枚数は僅かになっていった。
「フロル」
「はい」
「一発賭けてみないか」
「…相当飽き飽きしてますね。何を賭けるんですか」
「勝った方が負けた方の望みを聞くとかでいいだろ」
「それで構いません」
彼がまたカードを捨て、手元には二枚残った。対して彼女は一枚だ。
「…つまり、私がここで揃えれば貴方様にひとつおねだり出来るんですね」
「朝餉の用意したくないとかは止めろよ」
「本気でサボタージュしたかったら申告しますからそれはないです」
「おい」
スっと細い指が一枚をつまむ。しかしそのまま引き抜かず、彼の瞳をじっと見つめた。
「…?」
その後、不意に興味を無くしたように目を逸らすともう片方をつまむ。そして少しだけ引き上げて、睫毛をふるりと揺らした。
「…!」
それに応えるように彼が瞬きした瞬間、彼女は手を離し一枚目のカードを引き抜いた。
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