嘘と嫉妬

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二人の話に耐性がついた頃、ふとレジカウンターに置いてある相坂君のダーツケースを見つけた。 私達はよく互いのダーツケースに落書きを貼ったり、ちょっとした悪戯をしたりして遊んでいた。 相坂君のダーツケースを手に取る。 ほんの悪戯心だった。 中を開ける。 私はダーツ用品の他にも紙のようなものが入っている事に気付いた。 なんだろう? その紙類は丁寧にたたんでいるものから、乱雑に入れたのであろうものまで様々な形をしていた。 そこには駿ヶ崎さんが日常的にやっていた落書きの数々が納められている。 謎のアザラシのキャラクターや、ネコのキャラクター……。 この辺は私にもよく描いてくれたものだった。 一枚一枚を確認していく。 次に目の前に飛び込んできたのは、なんのキャラクターも書かれていない文字だけのメモ用紙。 そこには見慣れた文字でこう書かれていた。 「相坂君へ パフェ美味しかったね 大好きだよ」 一瞬、呼吸が止まった気がした。 そして一気にこみ上げる嫌悪感。 「相坂君へ お疲れ様 大好きだよ」 可愛いハートマークで締めくくられているその文章は数枚に渡って続く。 読み終える頃、私の中にあったはずの小さな信頼の壁は跡形もなく崩れていた。 わかっていたはずなのに、とても裏切られた気分になる。 人間は理不尽だ。 それでも、駿ヶ崎さんは彼氏と別れていなかった。 彼氏との時間が合わないことをいい事に、殆ど毎日相坂君と過ごしていたのだろう。 何もハッキリとさせないまま。 私と彼氏には嘘をつき、相坂君には甘い言葉を吐いて自分の周りにいる人達を繋ぎ止めていた。
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