恋愛症候群

前兆

相坂君が辞めてから、駿ヶ崎さんは徐々に相坂君と距離を取るようになった。

それでも、相坂君が会いたいと言えば会いに行っているようだった。

「この間、相坂君に合鍵を返しに行ったんです。車の中で渡した途端に、それを床に叩きつけて……降りようと思ったら肩を思い切り掴まれて降ろしてもらえなかったんです」

そんな話を毎日のようにされ、私も何故か駿ヶ崎さんを放っておけなくなっていた。

そんなある日、営業時間が終わり外の看板をしまいに私が外に出ると店の前に見慣れた車が停まっている事に気付く。

私はすぐにその持ち主が誰なのかわかった。
仕事終わり、毎回のように乗ったあの車。
あの告白を聞いた夜にも乗っていた紅色の軽自動車。

看板をしまって店内に戻り、慌てて駿ヶ崎さんの元へ走る。

「駿ヶ崎さん！！正直に言ってください！！今日相坂君と約束していますか？」

私がそう聞くと駿ヶ崎さんは驚いたように瞳を丸くして首を左右に振った。
それが本当なのか嘘なのかは私には判断出来ない。

「してません！！」
「でも……車が……停まってるんです」

駿ヶ崎さんはそっとポケットからスマホを取り出して画面を開く。

「きてる……「迎えにきたよ」って……」

そう聞いた途端、背筋にスゥっと悪寒が走った。