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自覚
ダーツバーに入ってきた当初、通っていた学校も家族との関係も上手くいっていなかった相坂君は実家を飛び出し、インターネットカフェでシャワーを浴びたりして車中泊を繰り返しながら働いていた。
しかしそれをずっとするわけにもいかず、やがて相坂君は物件を探し始める。
どこに住むのがいいのか、どんな間取りがいいのか、そんな事を話しているのが楽しくて、私達も面白半分で一緒に物件を探した。
色々話し合った結果、最終的に決まった賃貸物件は偶然にも駿ヶ崎さんの家のすぐ近所。
今思えば、あれは偶然ではなかったのかもしれない。
そこから、私達は仕事帰りに相坂君の家に遊びに行くようになった。
当時は私達3人の他に、専門学生だった新堂(しんどう)君も含め4人で遊ぶことが多く、その度に相坂君は私達に美味しい手料理をご馳走してくれた。
カードゲーム、ボードゲーム、麻雀ゲーム。
その他にも焼き鳥焼き器を買って皆で宅飲みもした。
4人で遊ぶのが日常的になった頃、相坂君は頻繁に私に駿ヶ崎さんの話をするようになる。
「聞いてくださいよ七瀬さん。昨日駿ヶ崎さんが……」と楽しそうに話す相坂君の瞳と声は駿ヶ崎さんに対する同僚以上の感情をわかりやすく表していた。
そんなある日、仕事終わりに相坂君が「七瀬さん、僕昨日カレーを作ったんです。良かったら食べに来ませんか?」と声をかけてきた。
「カレー?へぇ、いいね。食べたい」
私はすぐにそう答える。
こんなことは日常茶飯事だ。
私と相坂君の間に先輩と後輩という以外の関係性はない。
だからこそ、楽しめた。
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