それでも私は、あの星をのぞんだのだ

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それでも私は、あの星をのぞんだのだ

 酷く静かだ。月明かりの照らす音すら聞こえてくるのではないかと思うほど、落ち着いた静寂で満たされている。その巨きな体躯は確かに今己の両のまなこに映っているというのに、瞼を閉ざしてしまえば、本当にそこに存在しているのか疑問が浮かぶくらい、彼の竜は全く静かな気配をしている。それはあたかもこの場から見上げた先にある夜空のようで、巨躯には見合わねども、この竜自体にはなんとしっくり当て嵌まることだろうかと、幾度となく感心する。  竜はその目を閉ざしたまま、色とりどりに咲き誇る花の中、身を丸め横たえている。よもや世界最強と謳われる生物である竜が一介の人間の気配に気付かぬということはないだろうと思ったが、まだ酷く消耗しているだろうから、眠りが深いのかもしれない。竜の表情など知る由もないが、それでも穏やかなものであるように窺えた。     
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