10.静かの海

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指先に空気が触れて、そこを目指して顔を上げた。 ――し、死ぬ・・! ザバッと水の上に顔を出して、派手に咳込んだ。鼻も口も喉もヒリヒリと痛んで、侵入した湯を出そうと体が反応する。びしょ濡れのまま睨み上げると、広い湯殿の縁でそいつは俺を見下ろしていた。 『こいつの体を清めたらすぐに連れて来い。相手をしてやる。』 『ちょっと・・待て!待てよ!』 荒い呼吸を抑えて必死に呼び止めると、細めた目が面倒くさそうに俺を見た。 『俺に手を出したらリアムが黙っていないぞ!!王弟リアムのオメガに手を出そうなんて、何考えてるんだ!』 言葉を話せる事がばれたってもういい。それよりこの状況を何とかしたくて必死に問いかけた。はったりでも何でもいいから、ここを逃げ出さなくては。いくら体が惹かれていたって、このまま好きにされる訳にはいかない。そんな事になったら、今度こそリアムに愛想をつかされてしまうに決まっている。 『俺の匂いでそんなに体を熱くして何を言っている・・。番うわけでもないお前は、ただの遊び相手なのだろう?遠くから来た客に玩具の一つくらい分けてくれるだろうさ。』 ――玩具・・・。 どこか冷めた目で自分を見るリアムを思い出した。ぽちゃん、と髪から雫が垂れる。言われるがまま何も言えなくなった。 『いいから早く来い。俺もお前も、そんなには待てないだろう?』 質問に顔を上げると、見下ろすその瞳の中に初めて自分と同じ熱を見付けた。 ――こいつも、興奮してる・・・。 濡れた体に視線を残して、扉の向こうに去っていく。その視線に縫い留められたように動けなくなった。遠慮がちに召使達が寄ってきて、湯殿から体が引き摺り上げられる。 言う事を聞かない体はされるがままに清められ、そのまま寝室へと連れて行かれた。
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