10.静かの海

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「あれ、リアム?どうしたの、こんな朝早く。」 朝露の付いた薬草を手に持って、薬草園の茂みから出てきた所で思いがけない遭遇をした。 レイに薬を作って減ってしまった材料を補充する為に、畑に出ていたところだ。まだ酒が残って具合が悪いと呻くヴェントを2階の寝台に押し込んで、外に出たのは僕一人。こういう遭遇をした時、何となく、ヴェントがいなくて良かったと思ってしまう。リアムに対して感情は無いから、別に気まずくは無いんだけど、何となく。 「シエル、やっぱりいたんだね。」 従者を連れたリアムは医局の建物へ歩いていく所だった。僕に気付いて嬉しそうににっこりと笑う。朝の気怠さなんて微塵も感じさせない。レイはあんなに寝乱れて眠そうだったのに、リアムときたら夜の余韻なんて全く引き摺っていない。これはある意味尊敬に値する。 キラキラと朝の陽に照らされて光る髪を眩しく見て、僕は草を手に持ったまま駆け寄った。 「レイを探しに来たの?レイならさっき来てたけど、もうとっくに戻ったよ?」 「・・・ああ。」 はっと気付いたような顔をして、リアムはゆっくりと首を振った。 「そう言えばあのじゃじゃ馬は寝台にいなかったね。あの子が自由なのはいつもの事だ。探さなくてもどこかにいるだろう。・・レイの事では無いんだ。」 全く心配する様子の無いリアムを見て、ちょっとレイが気の毒になる。西の大国の要求をリアムが知らないはずは無いんだけど。心配じゃないんだろうか? 「レイではなく・・サマエルがこちらに来ていないかな?用事があったんだが、楽園には居なかった。」 「今日は来てないよ。こないだは会ったけど・・・用事って、なに?」 サマエル様の物憂げな表情を思い出した。王様が痛がっているって言ってた。・・あれから王様に薬は飲ませたんだろうか。王様の体調については何も伝わってこないから、すっかり忘れていたけれど・・どうなったんだろう。 そうか、と呟いて少し考え込んだあと、リアムは真顔で僕の腹に視線を置いた。その視線がゆっくりと、突き出たお腹から僕の顔へと移って、目が合うと口の端を上げてニヤリと笑った。
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