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養父が扉を閉めると、昼間だというのに部屋は薄暗い空間になる。
元は店の倉庫として作られた10畳ほどの広さの室内は、ろうそくの明かりと、壁の上方に取り付けられた小さな明り取りの窓から入ってくる、わずかな光があるのみとなった。
窓からの光の筋に照らされて、空中を漂う埃がそこだけキラキラと光っている。
――ああ、始まってしまう。
緊張で、自分の心臓の音が耳に聞こえそうなほど胸が鳴っている。
握りしめた手は力を入れすぎて、細かく震えた。
――大丈夫、うまくいく、うまくいく。今日も、あれを飲ませればいい。
今日で、5人目。
養父が客を連れてくる頻度は高くない。少年好みの客を大っぴらに探せるわけでもなく、養父の根回しした信頼のおける数人の商売仲間から、伝手をたどってやってくる客がほとんどであった。
養父のテオには借金があった。
薬草販売の仕事だけでは返済には追い付かず、店の客がシエルに目を付けたのをきっかけにして、養い子が商売道具になり得ることを知ってしまった。
わずかの良心から最初はためらう様子もあったが、借金のしつこい督促へのストレスと、最初の客が置いて行った金を手にしたとたん、彼は変わってしまった。
店の売り上げの一週間分を短時間で稼ぎ出す、金脈が手元にいることを知ってしまったのだった。
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