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街の南門から黒馬に跨ったヴェントとデュカが出ていくのを、人込みに紛れてじっと見つめていた。
門をくぐるその瞬間、ヴェントの栗毛が振り返りこちらを見る。
見送りすることは言っていないのに、振り返った視線がまっすぐに雑踏の中のシエルを射抜き、小さく片手が挙げられた。
鼻の奥がつんとして、息が苦しくなる。
胸が苦しくなり、どうしようもなくなって、シエルは小走りに門の方へ駆けていった。
門を抜け街道の先を見つめると、ヴェントとデュカが土煙を上げて馬を走らせる後ろ姿が見える。
「ヴェント!」
初めて名を呼び追いかけるけれど、声は届くはずもなく馬影は徐々に小さくなる。
「ヴェント!ヴェント!・・ヴェント・・・まって・・・。」
息が切れ、足がもつれても、諦められずに街道を走った。
――いかないで、僕から離れないで。
強く思った。
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