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1.剣と黒髪
「いいか、この客は上客だ。いう事を聞け。逆らうなよ。逆らったらロスにも客を取らせるぞ。」
小声で投げつけられた養父の言葉に、シエルの喉がひゅっと音を立て、長い前髪が揺れる。今まで何度か味わった絶望感が込み上げてきて、寝台の上ででシーツを握り締めた手は震えた。
俯いて無言のシエルを見て了承と受け取ったのか、だらしない腹を重そうに抱えて、養父は表に出ていった。
少し間をおいて、部屋の外から養父と、もう一人の声が近づいてくる。ガチャガチャと金属のぶつかる音がすることから、相手が腰から剣を下げるような人物だとわかる。
・・・乱暴にされるだろうか。
「ロスの・・・ロスの為・・・。我慢しろ。」
祈るように胸の前で手を握りしめて、大きな目にかかる黒髪が揺れた。
成長期の15歳にしては華奢で、少女とも見まがう顔つきは、養父が連れてくる客を喜ばせるのには十分すぎる容貌だった。
小さな窓しかない暗い室内に、開いた戸から光が差し込む。
招かれざる客の姿は逆光で見えず、シエルは目を細めた。
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