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2.星を探して
街はずれの粗末な家の前に、大仰な馬車の集団がやってきたのは、ヴェントがマラカスを出発した翌々日の事だった。
「領主様より命じられて参りました。シエル様の弟君を、エストレーラ侯爵家ヴェント様の居城まで、こちらの一行が丁重にお連れ致します。」
シエルに対して深々と一礼した銀髪の若い男は、どうやら集団の中では一番偉いらしい。
シエルに説明する傍ら、的確に指示を出している。
人に礼などされたことの無いシエルは、返事に窮して何も言えなくなった。
「シエル・・・心細いよ。」
馬車に乗せられたロスが、弱々しい声でシエルの腕をつかむ。
事ここにきて、シエルはこれで良いのかわからなくなった。
「後から必ず行くから・・。先に病気を診てもらってて。
僕が行くまでに少しでも良くなるんだよ。」
ロスの茶色い瞳が揺れる。
「ご安心ください。医術の心得があるものが同行します。護衛も数人付けました。
不安はありましょうが、マルクール伯の名に懸けても、エストレーラ侯爵家までご無事にお連れすることを約束致しましょう。」
いつの間にか後ろに立っていた銀髪の男が、シエルに告げて、肩を触った。
肩に置かれた手の、ヴェントとは違う感触になぜか鳥肌が立ち、振り払いたい衝動に駆られる。
―親切そうな人なのに。
衝動を抑えて微笑み返した。
別れを惜しむ間もなく馬車は出発し、後にはシエルと銀髪の男だけとなった。
馬車の進行を目で追うシエルを見下ろし、
「なるほど、こんな所に隠れているものなのですね。」
呟いた声は、シエルには聞こえなかった。
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