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真面目な表情で、話の続きを促してくる。
《そうですね……端的に言えば、私にはもう力がない。半年前のあの日、大量の魔力を失ったのです。本当は、退職したかったのですが……》
「なりませんよ」
《この通り、マスターに止められまして》
横目でチラリと見たら、マスターはすぐに返事を寄越した。
皆の反応を伺いながらも、僕は話を続ける。
《力なきものにこの地位は務まらない、だから一旦休職することにしたのです》
そこで僕は、話を区切った。
室内は静寂に包まれ、皆が僕の言ったことを咀嚼しているのが分かる。
俯き考える中で、炎帝がそっと手を挙げた。
「それは、魔力を取り戻せる算段があるということでしょうか?」
《可能性はゼロに近いですが……あるには、あります》
僕を助けてくれたエルフの女性。
彼女が今、必死に研究を重ね、解決法を探ってくれていた。
それが成功し、魔人の魔法を完全に消し去ることができたなら……僕の魔力は、回復する。
だからゼロに近いが、可能性がないというわけではない。
「では、もし貴方様の魔力が元に戻らなかった場合は、退職するのですか?」
《そのつもりです》
その時はもう、僕の心は完全に支配され、王子のように昏睡状態となっているだろう。
けれどそれは口には出さず、退職の意だけ伝えた。
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