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ずっと気を張っていたから力が抜け、ソファになだれ込むようにして座った。
「今、お茶を入れますね」
「すみません、マスターもお疲れのはずなのに」
「いいえ。私は貴方ほど、喋っていませんから」
その言葉に甘え、ソファに行儀悪くも足を上げ、抱えた膝の間に自分の顔を埋めた。
炎帝の言葉が蘇る。
力を失っても、僕が良い、だなんて……。
それは、何を持って言ったのだろう。
僕の何が良くて、帝たちは僕を受け入れてくれているのだろう。
初めてそれを、疑問に思った。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
顔を上げると、心配そうなマスターの顔とかち合う。
「やはり、久しぶりに零帝として立つと心労が激しいですよね。今日は、ここに泊っていきますか?零帝の部屋に貴方がいても、もう大丈夫でしょうし」
確かに、今日帝たちに僕の存在がちゃんと生きていることが証明されたため、零帝の部屋に僕がいても不思議ではない。
「じゃあ……そうします」
部屋には転移で帰ればいいだけだが、零帝の部屋にいたほうが正直楽だ。
なのでマスターの言葉に同意し、なら急いで帰らなくてもいいと思い伸ばしていた背筋を背もたれにもたれさせた。
それを見て、ふっとマスターが優しく笑む。
疑問を視線で訴えると、笑いながらマスターは答えてくれた。
「いえ。ただやっと、私に気を許してくれたのかと思うと、嬉しくて」
ニコニコと笑うマスターは確かにいつも浮かべている笑顔より嬉しそうで、楽しそうだった。
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