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信じられないと、情報を整理するために今、マスターの頭の中ではちょっとしか会っていないあの日のジークについて浮かんでいるんだろう。
ジークは普段は優しそうな男、しかも見た目も草食系の優男である。
混乱しているであろうマスターは、落ち着かせるために息をついた。
「退学……は、させない方がいいですね。彼を退学させどこにいるか分からない居所に怯えるより、今の方がこちらとしても監視できますし」
「はい。それに、現役の私ですらちょっとの油断でこの魔法を掛けられたくらいですしね」
僕は基本的に、零帝として立っている時は気を張っている。
だが、あれは零帝としてのフードを取り、プライベートでいる時だった。
冒険者時代の黒のフードを被って、悲鳴が聞こえたから駆けつけて魔物に襲われている人を助けて、とどめを刺した瞬間。
ほんの少し気を抜いた時、それも大抵の気配を感じ取れる僕が、ジークの気配だけは感じ取れなかったのだ。
だから油断した、そして今の力が衰えている僕では、そんなジークに対応するだけの力などあるはずもなかった。
「……そうですか。ですが、監視するだけで手出しはしない、そう言われたんですよね?あまり信用はできないですが……今は、現状維持しか手はない、ですね……。ですが、そのジークという魔人を監視するためのスパイを送りましょう。学校の先生としてだったら、監視もしやすいでしょうし」
「そうですね」
それは、僕からも提案しようと思っていたことだ。
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