8-王宮にて

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だから――。 「この魔道具は、王子の身に危険が起こったときにのみ、使用してください」 つまりは、緊急事態――王子が、本当の意味で死に瀕したとき、一縷の望みに掛け、この魔法を使用する。 どんな魔法が来るのか分かるということしか変わらないが、心構えができた状態で、どれだけ対処できるか……それが、試されるのだ。 ただし、失敗した場合はもっと酷くなる。 頭の無意識化で送られている信号も機能しなくなり、心臓や呼吸の停止、つまりは――肉体としての死を迎えるのが早くなる。 心臓の停止を阻止できるほど医療も魔法も進歩していないので、心臓が停止した場合、そのまま死を迎えることになるのだ。 なのでこれは最後の最後に使用するもの、それこそ死を迎えそうな時の最後の希望として、王女に渡しておく。 僕から指輪を受け取った王女は、神妙に頷いた。 「分かりました。……使う日が、来なければいいのですが」 「それについては、僕は何も言えません」 今この何が起こるかわからない状況で、王子の身に危険が迫る事が起こらないなどという身勝手なことは、言えなかった。 僕の言葉に「それもそうですね」と王女は頷き、背中を向ける。 「お昼、まだですよね?準備させるので、ご一緒にどうですか?」 「そうですね。ぜひ、お願いします」 王宮の食事は、普段食べているものより何倍も高価で、おいしい。
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