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積み重ねた練習に報いここで負けてしまってもよかったのだが……。
「…………」
ちらりと、王子を見る。
避けようとしない僕を見て、王子の瞳が鋭くなるのが分かった。
実は王子には、僕の封具が壊れたことは、この試合が始まる前に言っていた。
もちろん、負けようと思っている、とも。
だが、王子に言われたのだ。
相応に検討したうえでの負けでないと、キーシィスにも失礼ではないか、と。
僕を目の敵にしていると一瞬で分かるキーシィスに分かるように負けてしまえば、そりゃ相手にも失礼だし、これ以上キーシィスの態度がひどくなる場合も考えられる。
なのでここは上手く魔法を躱し、キーシィスの背後に回ることにした。
まだ使い慣れていないのか不安定な魔法を腰を屈め避け、キーシィスの背後に移動する。
嵐の渦に捕らわれたと思われた僕が急にいなくなったからだろう。
ハッとなった彼は、反射なのかぎりぎりで僕の剣に対応した。
「……っ」
右手で右に左にとキーシィスの剣に打ち込んでいる間に、左手では魔法の準備をする。
「おい、あいつまさか、無詠唱、か……?」
「マジか。滅多にできないと言われているのに」
そんな周りの声を無視して、魔法を放つ。
今、僕は魔法の制御に必死で、とてもじゃないが詠唱する心の余裕がなかった。
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