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それを見て、やっぱりなというようにキーシィスは瞳を眇める。
「お前の攻撃は……余裕が、ありすぎるんだよ」
悔しそうにキーシィスは剣を払ったかと思うと、僕と距離を取った。
そして、徐に彼は口を開く。
「俺の……負けだ」
そして潔く、彼は負けを認めた。
「え……?」
そう彼が言った途端、会場がシンと静まった。
彼が何を言っているのか周りが理解した時、会場がわっと盛り上がる。
「嘘だろ……あのキーシィスに、負けを認めさせた?」
「あいつ、何者だよ……貴族に、自ら負けだと言わせるなんて……」
「へ……?」
開いた口が塞がらない。
キーシィスは今、何と言った?
皆が理解しても僕は理解したくなくて、思考が停止して、行動も止まる。
そして言い切った彼は、颯爽とこの場を去った。
先生が気を取り直したように「勝者、アルディル!」と宣言したことにより、会場はもっと騒然となる。
呆然としたまま、僕は周りの歓声を浴びていた。
白熱とした試合が、突如として相手が認めたことにより、終わったのだ。
それも、傲慢な貴族として名高い、キーシィスが。
「アル!」
「おめでとう、アル兄!」
フレイとミリーの声が聞こえる。
そこで僕はやっと我に帰り、闘技場から観客席に移った。
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