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「すごいわね、アル。さすがだわ」
興奮しきったリアの言葉も無視して、ふらふらとフレイらのいるところに一旦戻り、止まった足を再び動かし、出口へと向かった。
「ちょっと、アル?」
後ろで呼ぶ声も「俺が行こう」という言葉も遠い世界の出来事のようで、耳に入ってはきても理解はできなかった。
それほど、キーシィスの行動は予想外だったのだ。
喧騒から外れたところまで移動したところで、王子が後ろから声を掛けてくる。
「大丈夫か、アルディル」
「……王子」
僕の事を知っている王子が来たことにより、僕はくしゃりと顔を歪めた。
「僕、負けようと思って……っ」
「ああ」
「あんな顔、させるつもりなんて、なかったのに……」
キーシィスが負けを宣言した時、苦虫を嚙み潰したような顔をしてそれでも僕を睨みつけていた。
努力した先にいる僕を、負けを認めるほど実力が離れていると理解した僕を、それでも彼は悔しそうに見てきた。
今まで僕の力を妬む人なんて、いなかったように思う。
皆『すごい』だとか『さすが』だとか言うだけで、この力をふるうと大抵は喜ばれた。
今は勝ち負けの勝敗が決まるから負けたらそりゃ悔しいだろう。
けれどあんなに深い感情をぶつけられるとは思わなかったのだ。
僕が実力を発揮すればするほど、悔しいと顔を歪める人がいる。
感謝されるだけではない、力を持つものとしての責務。
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