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零帝就任時にはいつも向けられていた憎悪もここ最近では滅多になくなり、それもまだまだ子供だった頃の記憶なんて曖昧で、久しぶりに向けられた負の感情に、僕は戸惑うしかなかったのだ。
オロオロとする僕を見て、王子は落ち着かせるように頭に手を乗せたかと思うと、徐に引き寄せられた。
びっくりして王子を見上げると、安心させるように微笑まれる。
「お前の実力は、他を圧倒しすぎて羨むのすら憚られる。だが、学生としているお前ではその実力差は頑張って頑張って、努力すれば手が届きそうだと錯覚させられる。だから羨む、また手が届かなかったと悔やむ。それが上にいる者としての定め、まだまだ学生としては逸脱しているお前の、これから受けねばならぬものだ」
ポンポンと宥めるように頭を軽く叩かれると、段々と落ち着いてきた。
さっきまで戸惑い荒くれていた波が、静かに、静かに、潮を引いていく。
落ち着いたところを見計らい少し距離を置かれると、王子を見上げた。
表情は堂々としていて王子そのものだったけれど、瞳は穏やかな王女のもので、その瞳に吸い込まれるように、ドキリと心臓が高鳴った。
「だから、堂々としていればいい」
優しく微笑まれて、顔に熱が集まる。
太陽の光が王子の背後に煌々と照らされ、つい見とれてしまった。
一瞬頭が真っ白になった後王子の言葉が頭に入ってきて、俯きがちに「……はい」と頷いた。
顔を上げられなくて、見られないように長めの前髪で顔を隠す。
「じゃあ、戻るか。あいつらも心配しているだろうしな」
歩いていく王子の後ろからついていき、顔の熱が引くように何度か深呼吸を繰り返した。
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