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マヤは、上質な革張りのイタリア製のソファに腰掛けたまま妹について考えていた。
隆という男が、なるみを家まで送ってきた理由は分かるような気はする。下心があるというよりも、むしろ、なるみのような童顔娘を放っておいてはあぶなっかしいと思ったのだろう。
どうやら、女たらしや変質者ではないようである。
「マヨネーズ入りシーチキンおにぎりか。いただきますっ!」
なるみが、申し訳無さそうに言った。
「ごめんね。隆くんって、炭酸系の飲み物が好きだったよね。お惣菜を食べながら、いっつも炭酸水やコーラを飲んでいたもんね。コーラを買ってくるのを忘れたわ」
「ああ、全然、いいよ。あのさ、もう一杯、麦茶、入れてくれる? それともオレが入れようか? 台所、あっちだよね?」
「いいえ。お茶なら、あたしが入れますから!」
マヤは親切で言っているのではなかった。見知らぬ男に食器を触らせたくない。
隆は、腹が減っているのか四つ目のおにぎりに手を伸ばそうとしている。細身なのによく食べる。思わず男の手をピシッと叩いた。
「待ちなさいよ! そのおにぎりはあたしが食べる。あたしは、明太子のおにぎりじゃないと嫌なんだから」
「あっ。そうなんだ。じゃぁ、食べかけで良かったらどーぞ。オレと半分んこしようか!」
軽いノリだった。この若者は、笑うと目尻がタランと一気に下がる。笑顔は、俳優の坂口健太郎に似ているような気がする。色白で歯茎も歯も綺麗だ。おそらく煙草は吸わないのだろう。ヤニ臭さもな、清潔感に溢れている。
手渡されたおにぎりを持ったままポカンと口を開けてしまった。
(これを食べろと言うの? 失礼な奴ね)
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