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「お姉さん、悪いんだけど、とりあえず、一旦、風呂の戸を閉めてくれるかな? どうしても見たいっていうなら見てもいいけど、こっちとしては、恥しいんだよね」
「うっ……」
ここは自分の家だと言い返してやりたい。こちらが悪いようになっているのか口惜しい。マヤは、ザッと目を逸らしながらも早口で怒鳴る。
「そ、そんなもの見たくないよ! ごめんなさい。失礼しました!」
言い捨てて、バシンと浴室の戸を乱暴に閉めていく。バクバクと心臓が荒くなった。血圧が上がったような感覚になる。乱雑に弾み続ける鼓動が収まるのを待つしかない。
(だ、誰なのよーーー?)
人の家に上がりこんでおきながら、相手は堂々としている。泥棒や不審者の類ではないようだが、なるみの知り合いだろうか。
(もしかして、あの子の彼氏だったりする? でもさ、彼氏を残してどこに行くっていうのよ?)
まるで訳が分からない。悶々としながらリビングのソファに座った。なるみに電話をしたけれど留守電になっている。すると、数分後に玄関の扉が開いた。耳障りなアニメ声でただいまーと呑気に呟いている。なるみは、居間に入るや否やのんびりとした声で話しかけてきた。
「あれぇ! お姉ちゃん、今日、帰ってくる日だっけ?」
「商談が終わり次第、帰ってくるって言ったよ」
「そうなんだぁ。早く帰ってきてくれて嬉しいよ。おかえりなさーい」
どうやら、コンビニに出掛けていたらしい。ローソンの袋をガサゴソと探しながら、おにぎりやパンをガラス張りの机の上に並べて無邪気に笑っている。
「たくさん買ってきたよ。お姉ちゃんも、お昼、一緒に食べない?」
馬鹿みたいにニコニコしている。
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