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「何を呑気なことを言ってんの。もうすぐ夕方なんだよ! ていうか、家に妙な男の子がいたよ! あれは誰よ!」
怒鳴りながら洗濯物の山を妹の方へと乱暴に押し付けた。
「いいから、これ、自分の部屋に持って上がりなさいよ! 話は、それからよ!」
やがて、なるみが二階から降りてきたのだ。ちょうとその時、風呂場の内側の戸が開く音がした。なるみは、階段を降りると、そのまま風呂場へ向かったようだ。
彼の声が脱衣所の方から漏れ聞えてくる。
「もしかして、先刻の人はお姉さん? 驚かせたみたいだから説明してあげてくれないか」
彼なりに色んな事を気にしているらしい。
「オレ、不審者だと思われているかもしれないんだよな」
「あはは、それは大変だね」
なるみは陽気に笑い飛ばしている。そして、アニメの女児みたいな声で男に説明していく。
「トランクスとTシャツは新品だよ。パパが太って入らなくなったものなの。遠慮なく使っていいよ」
トランクスを履き替えなければなないような事をしただろうかと気になった。確かめねば……。戻ってきた妹に向かって小声で問い詰めた。
「あの男は何なの?」
「お友達だよ。隆くんは、お店の常連さんなの」
「何をしている人?」
「職業は聞いたことはないな。でも、隆くんってさ、けっこう稼いでいるような気がするんだ」
「何で、そう思うの?」
「うちの店で後輩さんに奢ってあげていたもん。それに、すごく高そうなドイツの外車に乗ってる」
「外車……?」
若いのに稼いでいるらしい。終電を逃した妹の友人の女子がソファで寝ていた事はあるが、見知らぬ男を連れてきたのは今回が初めてである。
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