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「前から言ってるでしょう! あたし、他人が家にいる状況は嫌なんだってば!」
「困っている時はお互い様だもん。怒らないでよ。事情があるのよ」
「どんな事情よ!」
「隆くん、昨日の夜、あたしをここに送ってくれる途中で財布を落としたの。暗いから、どこで落としたのかも分からなくて……。ここに泊まってもらったの。翌朝、財布を捜そうってなって、色々と歩き回って汗だくになったからシャツを洗濯してあげたの。壊れていたノートパソコンを復旧させてくれて助かったなぁ。ごばんを買いに行く間、隆くんにシャワーを浴びてスッキリしてねって言ったの。そこに、ちょうどお姉ちゃんが帰ってきたって訳」
マヤは、出来る限り優しく声を抑えて告げた。
「あんた、無用心だよ」
「平気だよ。隆くんが留守番してくれているんだもん」
「あいつが変態なら、あたし達の下着を盗むんだよ! 通帳と印鑑も盗まれるもしれないんだよ!」
とはいうものの、今のところ事件は起きていない。
興奮を鎮めようとマヤは麦茶を一気に飲み干してから、正面に座っている妹に向かって言う。
「つーかさぁ、洗濯物をほったらかしにしないでって、あたし言ったよね!」
「ごめーん」
化繊素材の花模様の安っぽいキュロットをつまんで素足を見せている。
「あたし、昨日の出勤する途中に電柱にぶつかって自転車ごとひっくり返ったの。バイトの子が急に休んだからずっと働いていたの。隆くんが右足の小指が折れてるって言って添え木を当てて応急処置をしてくれた。自転車漕ぐのが大変だろうって言って送ってくれたって訳なの」
確かに、血を吸い込んだ蛭みたいに足の指が不気味に膨張している。
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