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「では、これが宝石換金代の三百ルプです」
「確かに。それじゃ……」
「あ、そうだお客さん、あの噂知ってます?」
ロゼが見つけた淑女の紅玉を宝石屋で換金したカイは、金を受け取ってすぐに立ち去ろうとしたが、背を向けたところで店主に呼び止められた。
「どうやら噂の二人組が、この近くにいるみたいですよ」
「噂?」
「ほら、神龍の碧鱗を持ってる二人組ですよ。いやぁ、近くにいるなら一度、碧鱗を見てみたいと思いません?」
「いや……別に……」
自分達のことを話しているのだと知ったカイは、店主に見えないところで眉間に皺を寄せた。この街に着いたのは三日前だというのに、もう滞在していることが知られている。
(これほど情報が早いなんて、計算外だ。すぐにでも、この街から出て行かないと)
厄介事に巻き込まれる前に街を出ようと決めたカイが、足早に店から出ようとする。
その時。
「きゃあぁぁぁ!」
店の外から、ロゼの叫び声が届いた。
「ロゼっ?」
声に驚いたカイが、慌てて外へと飛び出る。すると店の前で待っていたはずのロゼが、人相が悪い二人組に挟まれている姿が目に映った。
「お前達、ロゼを離せ!」
ロゼが置かれている状態を見れば、何をされているかなんて考えなくても分かる。カイは男達へと飛び掛かると、容赦なく拳と蹴りを食らわせた。
「ぐわぁぁっ!」
気付き様に一発入れられた男達が、その場に蹲る。
「ロゼ、逃げるぞ!」
「うん!」
ロゼの腕を取ったカイは、一目散に駆け出す。本当ならここで恰好良く男達を叩きのめしてやりたいところだが、最優先はまずロゼの安全だ。
しかし―――。走りながら、カイは思う。
あんな宝石ひとつで、こう何度も危険に巻き込まれていては身が持たない。今はまだ大事になっていないからいいが、これでもしものことがあったらどうするんだ。
幾ら価値のある宝石だといえ、今のカイには神龍の碧鱗が不幸を呼び寄せる厄災にしか見えなかった。
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