6人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「はぁ、はぁ……ここまで来れば安心だな」
街の外れまで逃げてきたカイとロゼが、息を切らしながら周囲を見渡す。
「大丈夫……みたいね」
絹のような綺麗な肌に玉の汗を浮かべたロゼは、追手が来ないことを確認すると漸くふぅーっと安堵の息を吐いた。
その横顔を見て、カイは息が止まりそうになる。
「ロゼ、頬に傷がっ!」
「え? ああ、一度あの男を振り切ろうとした時に、男が付けてた腕輪の飾りが当たったのよ。もしかして、傷になってる?」
ロゼの柔らかな頬に走る、赤い筋。血が流れるまでは行かなかったが、白い頬には目立つ傷だった。
「くそっ……」
カイの胸に、怒りと苛立ちが一気に渦巻く。
一つは、素性が露見しないようわざとロゼを離した結果、こんな事態を引き起こしてしまった自分の詰めの甘さに。そしてもう一つは、神龍の碧鱗に、だ。
「ロゼ、悪いが今すぐ碧鱗を使ってくれ」
「どうしたの? 突然……」
「それを持っている限り、こんな目にばかり遭って……もう限界だ」
切実な顔で、ロゼに頼み込む。しかしロゼは、頭を縦に振らなかった。
「それは……駄目」
「どうして! ロゼだって、これ以上危険な目には遭いたくないだろう!」
「それはそうだけど……何と言うか……その、今はお日柄が宜しくないっていうの?」
こちらは真剣に頼んでいるというのに、ロゼから返ってきたのは、いつもの脳天気な回答。これにはさすがのカイも、黙ってはいられなかった。
「いい加減にしろ!」
「カイ?」
突然怒鳴られたことに驚いたロゼの顔から、一瞬で笑顔が消える。
「何度危険な目に遭えば、事の重大を理解するんだ。これは落とし穴みたいに、引き上げれば済む話じゃないんだぞ! それに――」
毎度、心臓が潰されそうになる俺の気持ちを考えろ、と怒りをぶつけてやりたかったが、目前にあるロゼの瞳にみるみる涙が堪っていくのを見た途端に、言葉が止まった。
「……くそっ!」
吐き出せない怒りをどこにぶつけていいか分からないカイは、ロゼに背を向けて歩き出した。
「カイ、待って、どこに行くの?」
少し焦りを含んだ声色が、背中から届く。
「……宿屋に戻るぞ」
短く告げると、カイはロゼと一切顔を合わせることなく宿屋へと向かった。
・
・
最初のコメントを投稿しよう!