嘘吐きロゼの願いごと

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「はぁ、はぁ……ここまで来れば安心だな」  街の外れまで逃げてきたカイとロゼが、息を切らしながら周囲を見渡す。 「大丈夫……みたいね」  絹のような綺麗な肌に玉の汗を浮かべたロゼは、追手が来ないことを確認すると漸くふぅーっと安堵の息を吐いた。  その横顔を見て、カイは息が止まりそうになる。 「ロゼ、頬に傷がっ!」 「え? ああ、一度あの男を振り切ろうとした時に、男が付けてた腕輪の飾りが当たったのよ。もしかして、傷になってる?」  ロゼの柔らかな頬に走る、赤い筋。血が流れるまでは行かなかったが、白い頬には目立つ傷だった。 「くそっ……」  カイの胸に、怒りと苛立ちが一気に渦巻く。  一つは、素性が露見しないようわざとロゼを離した結果、こんな事態を引き起こしてしまった自分の詰めの甘さに。そしてもう一つは、神龍の碧鱗に、だ。 「ロゼ、悪いが今すぐ碧鱗を使ってくれ」 「どうしたの? 突然……」 「それを持っている限り、こんな目にばかり遭って……もう限界だ」  切実な顔で、ロゼに頼み込む。しかしロゼは、頭を縦に振らなかった。 「それは……駄目」 「どうして! ロゼだって、これ以上危険な目には遭いたくないだろう!」 「それはそうだけど……何と言うか……その、今はお日柄が宜しくないっていうの?」  こちらは真剣に頼んでいるというのに、ロゼから返ってきたのは、いつもの脳天気な回答。これにはさすがのカイも、黙ってはいられなかった。 「いい加減にしろ!」 「カイ?」  突然怒鳴られたことに驚いたロゼの顔から、一瞬で笑顔が消える。 「何度危険な目に遭えば、事の重大を理解するんだ。これは落とし穴みたいに、引き上げれば済む話じゃないんだぞ! それに――」  毎度、心臓が潰されそうになる俺の気持ちを考えろ、と怒りをぶつけてやりたかったが、目前にあるロゼの瞳にみるみる涙が堪っていくのを見た途端に、言葉が止まった。 「……くそっ!」  吐き出せない怒りをどこにぶつけていいか分からないカイは、ロゼに背を向けて歩き出した。 「カイ、待って、どこに行くの?」  少し焦りを含んだ声色が、背中から届く。 「……宿屋に戻るぞ」  短く告げると、カイはロゼと一切顔を合わせることなく宿屋へと向かった。 ・ ・
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