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言わぬが花
大学に入って二度目の新入生歓迎会が終わった。
8畳のサークル棟スペースで行われた鍋パーティーは、おおむね成功だった。
その証拠に一時から始まった鍋パーティーは、だらだらと続き、
解散する際には日が傾きかけていた。
酔いつぶれた先輩たちを置いて、牧男は今期唯一の新入部員のリカを連れてサークル棟をでた。
リカの家は門限があり、遅くまで引き留めるわけにはいかなかった。
また、場酔いもあるのか、リカは少し足元がおぼつかない様子だったので、
同じ駅の牧男が送っていくのも当然のことだった。
駅までの距離は、あまり遠くなかった。
その遠くない距離を、牧男は強い緊張をもって歩いた。
少し距離を開けて歩く牧男とリカの間には、自然と沈黙が横たわった。
まだ、寒さの残る空気がゆったりと流れる。
牧男はもともと無口な方だ。
リカは鍋パーティーの間かなり喋っていたが、今は何かを考えるように黙っていた。
そうして、特に会話のないまま駅に着いた。
「牧男さん。今日は、ありがとうございました」
それだけ言って、リカは改札へと消えていった。
牧男は、リカの後姿を見送ってから、踵を返した。
今日は電車に乗る気にはなれなかった。
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