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ああ、ロミオ
「わたしは死んだことになってるんだよ」
おにぎりを陳列棚に全部おさめて振り返ると、悲しい目で美濃くんがわたしを見ていた。
「だからさ」
同情してもらおうとか慰めてほしいとかそんな気持ちはない。
毎日ストーカーから守るために、義理で送ってくれるようになった美濃くんに申し訳なくてわたしは言う。
「わたしに何かあっても、親はなんとも思わないよ」
空になった運搬用の青いコンテナを持ち上げると、美濃くんが無言で取上げ、バックヤードに運んでくれる。「ありがと」と言ったわたしの声と重なるように、自動ドアが開き来客のメロディーが鳴る。
なぜ二人が結婚し、わたしが生まれたのか不思議に思うくらい、物心ついたときから父と母は仲が悪い。ひとりっ子のわたしはいつも板挟みに合い、二人の緩衝材になった。
学歴の低い母と仕事中の事故で足に障害が残った父は互いに罵り合い、顔を見ればいつも眉間に深いシワを寄せている。なのに母は食事の世話だけはきちんと三食欠かさず、父も食事のときは黙って箸を動かした。
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