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金曜日、仕事を終えて帰宅の準備をしていると、地味子ちゃんが小さな声で耳うちする。
「岸辺さん、ご都合がよかったら土曜日の夕方、お礼に食事にご招待したいのですが」
「いいね。招待をうけるよ。割り勘でね。場所は?」
「私のアパートで作りますから、お好みを言ってください。和食でも、中華でも、洋食でもいいですから」
「ええ・・・、横山さんのアパートで! 何でもいいの? じゃあ和食が食べたい」
「じゃあ、和食を準備します。6時にお待ちします」
溝の口の駅前の酒屋で白ワインを1本とケーキ屋でショートケーキを2個買って、地味子ちゃんのアパートへ歩いて行く。
6時少し前に着いたので、アパートの下で時間をつぶす。仕事のアポと同じ調子。6時丁度にドアをノックする。奥から返事。
「こんばんは、お言葉に甘えてご馳走になります。これは白ワインとケーキ」
「ありがとうございます。どうぞお入りください」
部屋に入るともう座卓に料理がならんでいる。本格的な和食のフルコース。先付、吸物、刺身、焼物、酢の物、炊合、蒸し物、揚げ物、ご飯・味噌汁、果物、それぞれ二人前、並んでいる。
「日本酒も用意しました。冷ですかお燗しますか?」
「冷でお願いします」
「分かりました」
「作るのに随分時間がかかったんじゃないかな。品数が多いね」
「3時ごろから作りはじめました」
「食器もちゃんと二組あるんだね、僕は一組しかないけど」
「女の子は大抵二組は揃えているんじゃないですか。お友達を呼んだりしますから。私は母親ですけど」
「いただきます」
「お酒もどうぞ」
「どうして招待してくれたの?」
「この間の看病のお礼です。泊まってまでいただいたので、それと昇給してもらったので」
「僕の看病に来てくれて食事を作ってお弁当も作ってくれたのでお相子、それに昇給は実力、頼んだのは僕だけど室長が認めたからだよ」
「でもどうしてもお礼がしたくて。あの時はあり合わせの材料でうまくできなかったので」
「でもとてもおいしかったよ」
「今日の料理はどうですか」
「おいしいね、久しぶりだ、こんなにうまい和食は、料亭へ行ったみたいだ。わざわざありがとう。奥さんにする人は幸せだな」
「それならいいんですけど」
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