地味子ちゃんに交際を申し込んだ!

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鯛とヒラメのお造り、ブリの照り焼き、カボチャの煮物、タコの酢の物、海老とキスと野菜のてんぷら、茶碗蒸し、炊き込みご飯、どれも味付けが良くておいしい。 お酒と白ワインを飲みながら残さず食べた。地味子ちゃんもお酒を飲んで少し酔ったみたいでご機嫌に話をする。 食べ終わると、さっさと後片付けをして、デザートに買ってきたケーキを食べる準備をする。 ケーキを食べていると、座卓に座った地味子ちゃんの腕時計を外した左手首に自然と目が行った。 やはり大きな切り傷の後がある。見ているのに気づいたのか、右手で隠そうとするので、悪いと思って目をそらせる。 「手首の傷、目立ちますか?」 「いつもは腕時計をしているので分からないけど、目に付くね」 「自分で切った痕です」 「自殺でもしようとした?」 「3年ほど前ですが、付き合っていた人が別れようと言うので、悲しくなって」 「切り傷が大きいから大量に出血したんじゃない」 「発見されたときは血の海だったそうです。母が偶然、訪ねて来て見つけてくれて、救急車を呼んで病院に運ばれました。もう少し遅かったら助からなかったと言われました」 「お母さんは随分驚かれただろう」 「気が付くと母が いて、勝手に死んだらダメ、私が一生懸命に育てたんだからと、きつく叱られました」 「そのとおりだよ、一生懸命に育てた娘が自分より早く死んだら悲しすぎる、それも自殺ならなおさらだ」 「母には本当に心配をかけました。その時、これから何があっても自分で命を絶たないと心に決めました」 「でも本当に辛かったんだ」 「私は好かれていると信じて、身も心も尽くしてきました。それで好きな人ができたから別れてくれと言われて、悲しくて、悲しくて、死にたいと思いました」 「僕も彼女に別れてくれと言ったことは、今でも悔いている」 「でも岸辺さんは好きな人ができたからではないでしょう」 「そうだけど、彼女の信頼を裏切ったのは同じだ」 「その後、彼女はどうしました?」 「風の便りでは、ほどなく新しい彼氏を見つけて、1年後に結婚したと聞いた。だから、ほっとしている」 「岸辺さんはやっぱり優しいです。私の元彼とは違います」 「男って皆同じだよ」
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