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「病院のベッドで考えました。一度死んだのだからこれからは余生だと、それならもっと気楽に生きようと思いました」
「生き方が変わったの?」
「私、それからは何事にも期待することがなくなりました。あきらめたと言ってもいいのかもしれません。あきらめていると楽ですから」
「そうだね、あきらめていると、期待しないし、何か少しでもいいことがあると、とっても得した気分になれるね」
「岸辺さんとは考え方が似ているかもしれません」
「そうかな」
僕はしばらく考え込んだけどすぐにきめた。
「唐突だけど、横山さん、僕と付き合ってくれないか? 上司としての僕ではなく、普通の男として」
「ええ・・・」
「迷惑だったかな、ごめん、今の話、なかったことにしてくれ」
「いえ、決していやじゃないんです。想定外で驚きました」
「立場を利用しているようで申し訳ない。素直な気持ちで、付き合ってみたいと思っただけだから」
「そう言っていただいて嬉しいのですが、どうお付き合いして良いのか、気持ちの整理がつきません。しばらく返事を待っていただけますか?」
「分かった。返事は時間が掛かっても構わないから、考えてほしい。迷惑だったら、なかったことにしてくれればいいから」
「勝手言って申し訳ありません」
「じゃあ、これで帰ります。ご馳走様、ありがとう」
いたたまれなくなって、急いでアパートを出た。衝動的に交際を申し込んだのは失敗だったと後悔した。
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