グリーン・アイ《前編》

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「いいか、お前がよっぽどの箱入りか、もしくはお仲間同士の馴れ合いに浸りすぎて感覚が鈍っちまったのか知らんが、ホモセクシャルに対する世間の風当たりはお前が思う以上に強い。そんなもん警察なんて場所で揉まれて生きてりゃ嫌ってほど痛感させられるんだよ」 「つまり、それってあんた自身ゲイに対して何かトラウマ的なものや恨みを抱えているわけではないってことだよね。今いる環境がそうさせてるってことか? それとも他に何かりゆ……」 「理由なんてもんは無い」  と、由汰の言葉尻を奪って吐き捨てる。  はたして本当にそうなのか。織部の言動に、どこか違和感を覚えた。  拒絶や嫌悪感というよりも、そのものに対する底知れぬ恐怖が織部の腹の奥底に埋まっているように思えてしようがない。  どうも腑に落ちず、腕を組んで不服げに首を傾げる。 「理由もなく非生産的なんて言ったりするかな?」  織部も同様に腕組みして仁王立ちになると、高い位置から由汰を見下ろした。 「そもそもホモフォビアってのはそう言うもんだろう? 同性愛者に対する嫌悪感や拒絶、偏見というのは言葉で説明できるもんじゃない。理由なんてものは無いんだよ。いいか、いつまでも馬鹿なことほざいてないでさっさと寝ろ」  とは言ってもだ。由汰は指で唇をいじりながら小さく呻る。  デカイ図体して仕事もできて自立した立派な大人に見えるのに、何も恐れるものなど無いような男が、なぜそんな小さな枠に捕らわれてネチネチと燻っているのか解せない。     
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